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共生酵母で受け継がれる母親の愛情

菌嚢(マイカンギア)

クワガタ♀成虫は、尾端付近に菌嚢(マイカンギア)と呼ばれる嚢状の器官を持ち、この中で大量の酵母を生育し、子孫のための共生微生物を蓄えています。
この器官はクワガタ♂には備わっておらず♀成虫特有のものとなり、カブトムシ・ハナムグリ等には♂♀とも菌嚢は存在しません。

クワガタ♀成虫の産卵時には、母体内に格納されている菌嚢を体外へ露出し、産みたての卵や周辺のオガに接触させることで共生酵母を子世代へ伝達します。
伝達された共生酵母から得られる微生物(バクテリア)には、子世代幼虫の消化吸収を補助する働きがあり、幼虫期間の成長・成熟に必要不可欠なものとなります。
(カブト幼虫の飼育下においても、クワガタ幼虫の食べかす(オガ)をマットに混合する手法は、酵母伝達を受けないカブト幼虫にも豊富なバクテリアを吸収させるうえで有効であるからと裏付けされます。)

母虫にのみ備わるその器官には、子供たちに対する”健康で強く、逞しく育ってほしい”というような愛情が感じられます。

クワガタ♀の人工蛹室使用時の注意点

羽化直後のクワガタ♀は、産卵時と同じように菌嚢を体外へ露出し、自身のフンで塗り固めた蛹室の内部壁に菌嚢をこすり付け、共生酵母を再び取り込む行動をとります。
この行動によって、母虫由来の共生酵母を自身へ取り込み、次世代の子供たちへと伝達されるようになります。

新品の人工蛹室には、内部壁に共生酵母が存在しない為、新成虫がこすり付け行動をとっても共生酵母が伝達されません。
そのため、クワガタ♀に人工蛹室を使用する際には、内部壁に元のフンで固めた蛹室(オガ)のコーティングを推奨します。
人工蛹室で羽化した場合でも、自然蛹室の内部壁を再現する事により、コーティングされたフンに含まれる共生酵母を菌嚢に取り込むことが出来、次世代への伝達が可能となります。

補足

褐色腐朽菌(マット)より白色腐朽菌(菌糸)が合うとされているヒラタのテスト
・テイオウイグニス
・モンスターマットpro(オガ粗めのプロトタイプ)+バイオDisc

蛹室側面のオガが削れているため、人工蛹室3Dへ引っ越し
菌嚢を持たない♂個体ですが、こちらも元のフンで固めた蛹室(オガ)をコーティングし、雑菌を抑制します。

関連商品:人工蛹室3D
参考文献:クワガタムシの生物学 生物の化学 遺伝・編